中堅看護職向けコラム
人生の転機となったアジア大会

私が13歳でプロ棋士になってから、15年以上が経過しました。プロ入りが早い囲碁の世界では20代後半でも若手ではなく、数多くの後輩が入ってきています。
囲碁は基本的に1対1で行う個人競技ですが、全体のレベルを上げるには個人の能力に頼るだけでは限界があります。そう考えるようになったきっかけが、2023年に中国の杭州で行われた第19回アジア競技大会でした。
現在の囲碁界は中国と韓国が強豪で、日本は3番手です。囲碁を文化として扱う日本とは異なり、中国と韓国では「マインドスポーツ」と位置付けられており、国を挙げて強い選手の育成に取り組んでいます。
私は囲碁種目のキャプテンとして大会に参加しました。結果は個人戦が4位で、団体戦が3位。当時感じたのは、チームをまとめることの難しさと、団体金メダルを獲得した韓国との大きな差でした。
韓国チームが常に優勝を目標に掲げ、勉強から食事に至るまで一団となって行動していた一方、日本チームは集団で行動する習慣が根付いておらず、連帯感が希薄だったのです。私自身も初めてのキャプテンで戸惑うことが多く、長丁場の大会が終わった時には心身とも限界に達していました。
この経験を通して、環境を変えるためには自分から行動を変えることが大事だと学びました。皆さんの職場でも、周囲の人が思った通りの仕事をしてくれずにイライラした経験がある方は多いのではないでしょうか。
同じ職場で働いている同士でも、思考や価値観が異なることは多々あります。不満を抱いた際に相手のことを頭ごなしに否定してしまうと、互いの不信感が強まるだけでなく、ハラスメント扱いされてしまう恐れもあります。怒りの感情をぶつける前に、相手の立場や考え方を想像してみるだけでも、接し方は変わってくるでしょう。
また、思考や行動は自分にできる範囲で少しずつ変えていくのがおすすめです。先述のアジア大会では、韓国は監督やコーチを帯同し、補欠の選手もいた一方、日本はいずれも同行しておらず、サポート体制の差が結果に直結してしまいました。
その反省を生かし、大会終了後「今後の世界大会では、サポート役の棋士を帯同したい」とお願いしました。その成果は、翌年開催された世界戦「応氏杯」で現れました。
海外での試合では、近くに親しい棋士がいてくれると心強く、アウェー感も減ります。応氏杯はベスト16からすべて中国で行われましたが、同行してくれた棋士をはじめ、手厚いサポートのおかげで日本勢初の優勝を果たすことが出来ました。
さまざまな物事に挑戦した時、結果だけで善悪を判断してしまうと、失敗を次に引きずってしまいます。経験を自分自身の成長につなげるには、「何が良くて何が悪かったか」を客観的に分析して、行動を少しずつ変えることが大切になります。
「千里の道も一歩から」という言葉があるように、その積み重ねが大きな目標の達成につながるのです。

