看護管理者向けコラム
心を守るベール

たとえば職場で一息ついたとき。ふと、誰かとたわいもない話をする。そんなシーンを想像してほしい。「駅前に新しいカフェできたの知ってる?」「川沿いのアジサイ、見事よね」「昨日、〇〇のラーメン食べたんだけど」———実は、この瞬間、脳が劇的に活性化しているのである。
ふと手持ち無沙汰になったとき、脳は顕在意識の信号を、潜在意識に振り分けて、自分の脳や周囲に対する勘を強める。脳内や周囲をふんわりサーチする感じだ。身体感覚に触れる何か(周囲の不穏)(記憶の中の何か)を察知する作業である。生存本能がなせるわざだ。
そんな状態で、いつも仲良く話をする誰かと目が合えば、脳は「身体性に根差した記憶」(見たもの、食べたもの、触ったもの、したこと、感じたことなど)を一つキャッチアップする。そしてそれをことばにし、音声に換える。つまり、①ふんわりサーチ、②イメージキャッチアップ、③ことば化、④音声化、の4つの演算を脳はすばやく連携していることになる。①②は潜在意識全体だが主に右脳、③は左脳、④は小脳の仕事である。
そう、「たわいもない話をする」とき、脳全体が活性化して、勘が働く。たわいもない話がうまい人は、気働きができる人でもある。しかも、話者同士が身体性を共鳴し合うので(「あ~、そのカフェ気になってたの」「あそこのラーメン、先週食べた!」のように)、互いの意識の波長が合って、勘が連動するようになる。このため、たわいもない話ができるチームは、ヒューマンエラーが激減するのである。‶現場”が始まる前のひととき、その緊張がほどけたひととき、たわいもない話を交わしてほしい。
たわいもない話には、ほかにも効用がある。孤独にならないのである。逆に言えば、たわいもない話ができる相手がいないと、脳は絶望的なまでの孤独を感じる。周囲のダメ出しが心に突き刺さり、すべてハラスメントに聞こえて、メンタルダウンしていく。
たわいもない話は、「心を守るベール」をプレゼントすることに他ならない。職場で緊張している若い人にしてあげよう。患者にも、家族にもたわいもない話は効く。子どもは、学校で多少何かあっても、親とのたわいもない話に救われる。思春期の子どもは返事もしないけど、それでもしてあげて。老親にもしてあげてほしい。今日食べたものの話、通勤途中に見た花の話。老いた親にとって、子のたわいもない話は至福なのだもの。
「ありがとう」もまた「心を守るベール」である。誰かにミスを指摘されたとき、「すみません」ではなく「ありがとうございます」と返す。これを職場のルールにしたほうがいい。「すみません」と謝ると、脳が「できなかった過去」にフォーカスするので、どうしても「ダメな自分」という気持ちが漂う。「ありがとうございます」は、「トラブルを未然に防いでくださって、助かりました」の意。脳が、「うまくいった未来」にフォーカスするので、メンタルダウンしないし、職場の明るくなる。
「ありがとう返し」は、夫にも効く。あるとき、テーブルに置き忘れた明太子を指して、「これ、要冷蔵じゃないの?」となじった夫に、「そうよ、ありがとう」と返したら、自分で冷蔵庫に入れていたもの(微笑)

